東京高等裁判所 昭和56年(う)723号 判決
被告人 羽石光一
〔抄 録〕
原判示第一の登記名義人表示更正登記は、登記上の共有持分権者であってすでに死亡している吉田徳子こと趙徳伊とは全く別人である川崎はるみこと趙徳伊の協力を求め、その通名を吉田徳子と変えさせたうえ、同女の関係書類を利用してその住所である大阪市生野区生野一丁目五番一九号に右登記名義人の登記上の表示住所を更正させたものであるから、虚偽内容の登記をさせたことに疑いはなく、被告人の行為に違法性があることは明白である。また、原判示第二の共有持分権全部移転登記は、通名を登記上の共有持分権者と同一に変更した前記川崎はるみこと趙徳伊の関係書類等を利用し、あたかも登記上の共有持分権者から吉田利男こと趙元濟に対して真実共有持分権を移転して移転登記を申請するかのような登記申請書類を作成したうえ、これを登記官吏に提出してその旨の登記をさせたものであるから、虚偽内容の登記をさせたことは明らかというべきであり、被告人の行為の違法性は十分にこれを認めることができる。所論は、共有持分権者である吉田徳子こと趙徳伊の死亡に伴い同女の夫である右趙元濟がその権利を相続したのに、相続登記に必要な書類が整わないため、やむなく右のような形で同人への移転登記を行ったに過ぎないのであるから、中間省略登記に違法性が認められないのと同様、その行為には違法性が認められないと主張するが、虚偽内容の権利移転行為及びそれを原因とする登記申請によって登記を行うことは、それらの効力を争いうる立場にある関係者の権利に影響するところが大きく、それ自体登記簿の有する公の信用を害する行為であるから、たとい真実の権利者に対して権利の移転登記を行った場合であっても、その違法性はこれを肯認すべきものであって、中間省略の形で権利の移転と登記申請を行うことに利害関係者の意思が一致している中間省略登記の場合とは趣を異にするといわなければならない。現に、関係証拠によると、本件の場合においても、本件土地上にある吉田徳子こと趙徳伊所有の店舗は、同女の生存中既に広川玉模こと董玉模に所有権が移転登記されており、本件土地についても、同人が現実に占有使用し、固定資産税を支払ってきたばかりか、店舗と同時に同女からその所有権を譲り受けたと主張しており、趙元濟が真実相続により本件土地の共有持分権を取得したか否かに関しては争いがあるのである。そうしてみると、正規の手続によらないで本件の共有持分権全部移転登記を行わせた被告人の行為には明らかに違法性があるものというべく、したがって、この点の論旨は理由がないことに帰する。
(千葉 香城 植村)